ぜったいに勤めたくないのだ症候群

人間嫌いのゆるい躁鬱持ちが引きこもりつつなんとか頑張るブログ

「ガイジン」との接し方がわからない僕たち

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僕は大学在学中、交換留学プログラムでヨーロッパのある国に1年滞在していたことがある。(上はその遠足でクラクフに行ったときの写真だ)

「ガイジン」にだけ失礼なふつうの人々

そのときのいちばん安いチケットは中華航空のもので、上海で乗り継ぎの飛行機におっかなびっくり搭乗したら、僕の席におばちゃんが座っていた。どうやら日本人っぽいけど、なにせ上海から出るヨーロッパ行きの便だし、微妙に確信が持てない。だからとりあえず英語で"Excuse me..."って話しかけたら、おばちゃんはじっとこっちを見て「アカンかってんや」と小さく独り言を言って、僕には何一つ言葉をかけずにそそくさと立ち去って行った。「マナーにうるさい国なのに、日本語が話せない (と思われた) 相手にはここまで失礼になる日本人がいるのか」とこの時は本当に衝撃を受けた。

留学中にはこんなこともあった。夜、学生寮の僕の部屋の前の廊下で、白人の若い男の子たちがものすごく騒いでいた。僕のルームメイトは東京から来た社会人学生の人で、ものすごく良い家の出で、お金持ちで、礼儀正しく品の良い人だった。その人が白人の男の子たちに向かって、日本語で「何をやっとんじゃコラァァァァ!」と怒鳴りつけた。男の子たちは水を打ったようにしんと静まり返って、その場から立ち去った。

僕がびっくりしていると、その人はにっこりと笑って「ガイジンから嫌なことをされたときは言葉が話せなくても日本語でいいから強い態度に出ろ、っていうでしょ」と言った。いや、それは痴漢とか路上でつきまとわれるとか、そういう暴力的な「嫌なこと」をされたときの話だろう。自分たちがおしゃべりしているところに、いきなり横から入って来て知らない言葉でわめきちらされても、酔っ払いか薬物中毒だとか、変な人がいるとしか思われないんじゃないか。つたない英語でもいいから (交換留学の審査にパスしたのだから、その人は日常会話程度なら英語ができるはずだった) 丁寧に話しかけて、静かにしてほしいと頼むほうがいいんじゃないか。それではぐらかされたり、無視されたら、その時に怒ればいいんじゃないか。遠くの方からまた男の子たちのにぎやかな笑い声が聞こえてきた。

「ガイジン」にちぐはぐな態度を取る人は日本国内でも見たことがあって、例えば僕の恋人はオーストラリア人なんだけど、一緒に歩いているとたまに子供や学生から「あ、ガイジンや」と指差されることがある。こっちに丸聞こえだし、今やインターネットを介して多くの人が日本語の差別用語として「ガイジン」という言葉を知っているのに。まるで彼を生身の人間ではなく、テレビ画面の中の白人だと思っているような態度だ。

相手を人間だと思えない?

世界一礼儀正しいとか、マナーに厳しいとか言われているはずの日本人の中に、外国人に対して(だけ)こんなに失礼になる人がいるのはどうしてだろう。どうも一部の人は極端な言い方をすれば、日本人以外を心の底では人間だと認識できていないようなのだ。肌の色や目の色の違う相手を、コミュニケーション可能な存在だと思えない。だから目の前に人間がいるのに、ちぐはぐで失礼な対応しかできない。

もちろん、外国人観光客の人に丁寧に道を教える人もたくさん見たことがあるから、そんな人ばかりだとは思わない。観光で来た人なら、そんな風に親切にしてもらえることの方が多いんじゃないかと思う。でも例えば (特に対話や議論の文化が根付いている国から) 日本に移り住んだ人が、長く住むにつれ上述したような体験を重ねていけば「日本人はコミュ障が多いな」くらいに思われかねないんじゃないか。現にRedditとか英語圏のネットコミュニティを見ると、日本は世界有数のゼノフォビックな国、というイメージは着実に浸透しつつあるようだし。オリンピックに向けて外国人観光客を「おもてなし」なんて言っているのは、つくづくむなしいキャンペーンだと思う。

対外国人限定の「コミュ障」

でも僕自身コミュ障だから、どう対応していいかわからない相手に対してちぐはぐな態度を取ってしまう感覚はすごくよくわかる。僕の場合は、自分の言葉が他の人間に通じるという確信がそもそも持てないから、僕のコミュ障は相手の国籍に関わらずわりとユニバーサルに発揮されるんだけど、やっぱり日本語が通じない相手だとさらに立ち回りが難しくなる。だから、自分の発言は他人に通じて当然だと確信しているふつうの人が、話す言語の違う相手に会ったときにコミュ障っぷりを発揮するのは、すごく自然なことだと思う。

コミュ障は自覚して訓練すればある程度なんとかなる。たとえ訓練できなくたって、自覚さえすれば地雷を踏む確率は減る。外国人をためらいなく「ガイジン」と呼び、ちぐはぐで失礼な態度を取る人が、自分はいわば対外国人限定コミュ障なんだと、とりあえずは自覚できる日が来ればいいのになと思う。あとインバウンド政策を進める政府担当者には、英語教育の充実を図るだけじゃなく、ぜひ「外国人に対してのみ人見知りになる人をどうサポートするか」という視点を持ってほしいなと思う。